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2016年1月20日 | タイ

「ポテンシャル」が結果として現れはじめた2015年のタイサッカー

12583671_971000736327139_1906623634_n2015年シーズンのタイサッカーを語るのに、まず欠かせないのがタイ代表の活躍。2014年のキャティサック・セーナムアン監督の就任から始まった快進撃は、2015年もとどまることを知らなかった。6月にシンガポールで行われた東南アジア競技大会(SEA Games)では、U-23タイ代表が2連覇を達成。グループリーグから決勝まで7戦全勝で24得点1失点と、内容も圧倒的なものだった。

また、ワールドカップ予選でもタイの躍進は続いた。アジア2次予選のグループFを戦うタイは、イラクとの最終戦を残して4勝1分け無敗で首位を快走中。ホームでのイラク戦では0‐2とリードを許す苦しい展開から残り10分でドローに持ち込み、中東の強豪を相手に成長を見せつけた。アジア最終予選(3次予選)へもほぼ間違いなく進出できる状勢となっており期待が高まる。

これまでタイがワールドカップ・アジア予選のファイナルラウンドに進んだのは、2002年の日韓大会予選のみ。当時は日本と韓国がホスト国で不在だったことに加え、オーストラリアもまだアジア予選に参戦していなかった時代だけに今とはまったく状況が異なっていた。実力で掴む正真正銘の最終予選進出は今回が初となり、タイがアジアトップレベルへの階段を着実に登りはじめたことを感じさせる。


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タイ代表はアンダー世代も含めて現在、東南アジア内の全カテゴリーのタイトルを保持。昨年のU-19東南アジア選手権では、タイに次ぐ力を持つベトナムを決勝で6‐0と下すなど、タイの実力はもはや東南アジアレベルを卒業したようにさえ思われる。2016年はリオデジャネイロ五輪予選を兼ねたU-23アジア選手権を皮切りに、各年代のタイ代表がアジアトップの戦いに挑む年となる。


圧巻の強さを見せた「5冠」のブリーラム・ユナイテッド

12571186_971000782993801_1296934430_n国内リーグでは、ブリーラム・ユナイテッドの強さが光った。タイ・プレミアリーグを25勝9分無敗、得失点差プラス75という別次元の強さで3連覇。タイFAカップ、リーグカップと昨年逃した2つのタイトルも奪還して、2年ぶりに国内主要タイトルのすべてを獲得する「3冠」を達成した。加えて昨年は、前年のリーグ王者とタイFAカップ王者の間で争われるコー・ロイヤルカップ、さらにはメコンエリア(タイ、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジア)のリーグ王者で争うトヨタメコンカップも制したため、前人未到の「5冠」の偉業となった。

タイリーグのレベルは、年々上昇を続けている。その中で圧倒的な力を見せたブリーラムの強さは特筆すべきものだった。タイリーグ史上最多となる33ゴールで得点王となったブラジル人ストライカーのジオゴ・ルイス・サントを筆頭にレベルの高い外国人選手をそろえ、各ポジションにタイ代表クラスが並ぶ陣容は隙がなかった。2016年シーズンへ向けても着々と補強が進んでおり、いよいよアジアの頂点にどこまで迫れるかという戦いに挑むことになりそうだ。


イングランドよりも自国リーグを見るようになったタイのファン

リーグの規模や盛り上がりにおいても進化を続けるタイリーグ。選手のサラリーはタイ代表クラスの選手であれば年俸数千万円も珍しくなく、トップクラスの外国籍選手であれば億単位の数字も聞かれるようになった。

観客動員数も年々伸びており、ブリーラム・ユナイテッドがホームの平均観客動員数で東南アジアトップとなる2万人超えを達成。さらに、日本人の神戸清雄監督が率いるナコンラーチャシーマーFCも熱狂的なサポーターを誇り、ホーム平均で同じく2万人を超えた。リーグ3位に入ったスパンブリーFCも平均1万5千人を超えるサポーターを集めているが、これら3チームがすべて地方クラブであることも興味深い。

タイリーグには3部リーグに当たるディビジョン2まで含めて計120ほどのクラブが存在するが、下部リーグの地方クラブでも多くのサポーターを持つクラブが増えている。ある地元メディアの調査によれば、タイのファンはイングランドのプレミアリーグよりも自国リーグにより関心を持つようになったという。サッカーといえばイングランドのプレミアリーグを指すのが当たり前だった東南アジアにとって、これは画期的な変化だ。

また、このオフにはブリーラム・ユナイテッドと、タイ国内でブリーラムに次ぐ人気と実力を誇るムアントン・ユナイテッドがそれぞれ、ラオス、カンボジアなどの近隣国へのツアーを敢行。タイ・プレミアリーグのトップクラブが周辺国でのファン獲得に乗り出したのも興味深い動きといえる。


多くの日本人監督がタイリーグで指揮

タイリーグは、世界で最も多くの日本人選手がプレーする海外リーグでもある。2014年シーズンまでは日本人選手が年々増えつづけて、ピーク時には60名を突破。だが、昨年は「外国人枠」が7人から5人に変更されたため、50名程度に減少した。岩政大樹(元BECテロ・サーサナ)、茂庭照幸(元バンコク・グラス)といった華やかな選手たちが複数プレーした一昨年はやや特別な年だったといえるが、日本人選手に対するニーズは依然として高く、今後も多くの日本人がプレーするリーグでありつづけるのは確かだろう。

また、2015年は多くの日本人監督がタイリーグで指揮を取った。監督3年目を迎えたナコンラーチャシーマーFCの神戸監督は、初の1部リーグで18チーム中8位につける健闘。一昨年にチョンブリーFCを率いてリーグ最優秀監督を受賞した和田昌裕氏は、昨季終盤に残留争いを演じていたポートFCの監督に就任して短期間でチームを立て直す手腕を見せた。一方で、チェンマイFCの三浦泰年監督、アユタヤFCの副島博志監督、ソンクラー・ユナイテッドの林雅人監督らはシーズン途中での退任となり、タイリーグで指揮することの難しさをうかがわせた。

タイで活躍する日本人が多様化してきた一方で、タイ発のJリーガーは2015年末現在、誕生していない。Jリーグの「アジア戦略」においても重要な国であるだけに待望されているが、タイリーグの成長によってトップ選手のサラリーが高騰していることがこの点ではネックとなっている。現在もFC東京が「タイのメッシ」ことチャナーティップ・ソンクラシーンの獲得に動いていると言われるが、所属のBECテロ・サーサナが1億円を超える金額での売却を希望しているため難航中だ。


昇降格を巡るトラブル、チーム売却など問題点も続出

一方で、まだまだ課題も多いのが現状で、シーズン終了後に問題点が形となって噴出した。まずは、未だに完全決着を見ない昇降格問題。タイリーグ屈指の名門であるBECテロ・サーサナが16位の降格圏に終わったが、シーズン終了後にリーグ戦で相手チームに規約違反があったことを盾に、スポーツ裁判所に提訴。その結果、新シーズンの1部リーグは2チーム増の20チームで行われることが発表されるという急展開があり、BECテロ・サーサナは残留する方向で話が展開している。

さらに、ディビジョン1(2部リーグ)からの昇格を巡っても、問題が発生。リーグ戦において悪天候でスタンドの照明が落ちて続行不可能となった試合があり、その試合の処理を巡ってこちらもスポーツ裁判所を巻き込んでの事態に発展している。それが結果的に昇格を争うことになったチーム同士の対戦であったため、昇格チームも確定できない状況だ。

また、シーズン終了後に各カテゴリーで売却や消滅の危機に陥るクラブも複数出ており、いずれも成熟したリーグでは起こりえない事態。急成長の光の影にあるこういった暗部も注視する必要があるだろう。とはいえ、レベルや盛り上がりの点ではさらなる飛躍の一年であったのも事実。新しいシーズンも、東南アジアのトップランナーとしてさまざまな面での活躍が期待される。

(文・写真 フリーランスライター/本多辰成