• コラム

2016年5月30日 | ベトナム

日本企業がこぞってスポンサーに、サッカーベトナム代表の何が魅力なのか?

VFFとスズキ社のスポンサー契約締結式

VFFとスズキ社のスポンサー契約締結式

ホーチミン市で5月16日、スズキ株式会社のベトナムにおける四輪車・二輪車の製造・販売子会社であるベトナムスズキ社がサッカーベトナム代表のトップスターパートナーに就任した。ベトナム代表に協賛する日本企業はスズキだけではない。今、多くの日本企業がベトナム市場、そしてサッカーベトナム代表に熱視線を注いでいる。

ベトナム代表ではこれまでに、スズキの他にも、ホンダ、ヤンマー、エボラブルアジア(オフショア開発)、Z.com(GMOインターネットグループの世界展開ブランド)がトップスターパートナーとなっており、毎年のように日本企業とのスポンサー契約を結んでいる。ベトナムは二人に一人がバイクを保有しているバイク大国であるとともに、南部のメコン、北部の紅河という二つの肥沃なデルタを持つ農業大国でもある。また、インターネット人口も右肩上がりに上昇中。日本企業がこれらの要素に目をつけるのは当然と言える。

また、日本企業が続々と出資する背景には、マネジメントを取り仕切る電通ベトナムの存在もあるが、こぞって出資を決めるのは、やはり何よりサッカーベトナム代表がベトナム国内で圧倒的な商品価値を示しているからこそであろう。

東南アジアにはサッカー熱の高い国が多いが、ベトナムもそのご多分に漏れず、サッカー好きが多い国である。U-23代表やA代表が出場する東南アジア競技大会(SEA Games)、AFFスズキカップは、国民の一大関心事であり、ベトナムが重要な試合で勝った日には、興奮した大勢のサポーターたちが国旗を振りかざしてバイクでパレードを行い、市内の交通が一時マヒするほどの騒ぎになる。

さらに、ベトナムサッカー界ではこの数年、ベトナム1部ホアン・アイン・ザライ(HAGL)の下部組織であるHAGLアーセナルJMGアカデミーから続々とスター選手が輩出されており、今季はこの中からFWグエン・コン・フオン(水戸)、MFグエン・トゥアン・アイン(横浜FC)、MFルオン・スアン・チュオン(仁川ユナイテッド)が海外移籍を果たした。

水戸に移籍したグエン・コン・フオン(中央)

水戸に移籍したグエン・コン・フオン(中央)

日本のサッカー関係者からは、ベトナムの現在の状況について、かつて元日本代表の三浦知良がセリエAに移籍したときと似ているという声も聞かれる。9000万の人口を有し、消費性向の高い若年層が多いベトナムは日本にとって魅力的な市場だ。電通の「ジャパンブランド調査」によると、ベトナムの親日度は調査対象国中トップであり、アジアの先進国である日本へのリスペクトが非常に高い国であることが分かる。

この数年、JリーグとVリーグの協力関係も急速に強まっているが、Jクラブとしては、ベトナムのスター選手を獲得することで、現地ファンの関心を集めるとともに新規スポンサーの開拓を図ることができ、Jリーグとしては、ベトナムをはじめとした東南アジアにおけるJブランドを確立していくことで、将来的な放映権の販売などを視野にいれている。

特に国民の注目が集まるベトナム代表には、上記で述べたように多くの日本企業がスポンサードしているほか、「ベトナムのメッシ」の異名で知られる国民的アイドルのグエン・コン・フオンは日本企業と個別のスポンサー契約まで結んでいる。レンタル先の水戸ホーリーホックも同選手の抜群の知名度と人気を活用してマーケティング活動を展開中。最近では、国営のベトナム航空(VNA)とユニフォームスポンサー(背中上段)契約締結に成功した。なお、水戸に背中スポンサーが入るのは2013年シーズン以来のことで、VNAは7月30日と8月3日に茨城~ベトナムのチャーター便を初運航する予定だという。

グエン・コン・フオンの波及効果はサッカーだけにとどまらない。水戸ホーリーホックが活動エリアとする茨城県は、農業分野を軸としてベトナムでの経済交流を推進しているが、今年3月には同選手を「いばらきベトナム交流大使」に任命し、県をあげてベトナムとの関係強化に努めている。

グエン・コン・フオンは、シーズン開幕前に肩を負傷してキャンプで出遅れ、ここまで日本ではリーグ戦1試合に途中出場したのみだが、水戸は同選手の獲得により、既にマーケティング的には一定の成功を収めている。今後は、グエン・トゥアン・アインを獲得した横浜FCもベトナム戦略を積極的に展開していくとみられ、Jリーグとベトナムの関係性は、Jリーグのアジア戦略において現時点では最も具現化されている例となっている。熱狂的なサッカー愛好国で、若年層が多い親日のベトナム、スターが生まれる土壌、また政治的にも安定していることなど、日本企業がサッカーマーケティングを展開する背景には、こうした様々なポジティブな材料がある。

(アジアサッカー研究所/佐藤)