• コラム

2016年8月23日 | タイ

ミゲル・ロドリゴがタイ代表監督になった日


元フットサル日本代表監督のミゲル・ロドリゴが、8月21日に行なわれたイランとの試合で、タイ代表監督としての初勝利を挙げた。


現在タイのバンコクでは、イラン/カザフスタン/日本の代表チームを招聘し、4カ国対抗の「Futsal Thailand 5(フットサルタイランドファイブ)」を開催している。優勝賞金は約1,000万円、テレビ放送もあり、12,000人収容のバンコクフットサルアリーナは、連日の大賑わいとなっている。


フットサルのカレンダーでは、2016年はワールドカップイヤー。第8回FIFAフットサルワールドカップが9月10日からコロンビアで開幕する。アジアの出場国は、タイ/ウズベキスタン/イラン/ベトナム/オーストラリアの5カ国。各チームはワールドカップに向けた最後の強化を図っているところで、Futsal Thailand 5は、タイ代表チームの強化とフットサルのプロモーションを兼ねた国際大会というわけだ。



ミゲル・ロドリゴのアジアへの旅は2009年から始まった。

選手育成の手腕を買われてフットサル日本代表監督に就任すると、2012年にAFCフットサル選手権で優勝。同年タイで行なわれたフットサルワールドカップでは、三浦 知良選手(横浜FC)を擁して予選リーグを突破、日本に過去最高となるベスト16の成績をもたらした。代表の活動期間がない時にも日本各地を精力的に飛び回り、全国の指導者へフットサルの指導法を伝えるなど、間接的にも日本フットサルの強化と地位向上に尽力した。常々日本への愛着を語り、気付けば日本語も堪能になっていた。


さらに4年が経過し成熟度を増したミゲルのフットサル日本代表は史上最強と目され、ワールドカップベスト8進出を公言していた。しかし今年2月、ワールドカップのアジア地区予選を兼ねるAFCフットサル選手権で、予選リーグを圧倒的な強さで勝ち抜きながらも、準々決勝でベトナム、5位決定プレーオフでキルギスに破れ、ワールドカップへの切符を取り逃がしてしまう。ミゲルは失意のなか、契約期間終了に伴って今年3月で日本代表監督を退任、7年間の日本での生活を終えた。



数ヶ月の休養を経て7月、ミゲルはワールドカップに出場するフットサルタイ代表監督のオファーを引き受ける。日本では、日本代表をワールドカップに導けなかったにも関わらず、出場国の監督を引き受けることに批判の声がある。タイではタイで、前監督のヘルマンを解任してまでわずか2ヶ月でワールドカップの準備を任せることへのプレッシャーもある。そのような状況で行なわれたのがこのFutsal Thailand 5で、ミゲルのタイ代表監督デビューとなる緒戦の相手は、日本代表だった。


「日本との試合は、簡単には表現できない。僕はタイ代表監督なんだけど、本当に日本が好きだから…おそらく、心の大部分が、まだ日本のことを思っていて…難しかった。」


イラン戦の前日に行なわれたタイと日本との試合は、2-2の引き分けだった。日本サッカー協会がバンコクに送ったチームは、U-19フットサル日本代表を中心とした若手主体の新生フットサル日本代表で、タイにとっては負けに等しい引き分けだ。確かにこの試合でのミゲルは、コーチングエリアの端で立ち尽くす場面が目立った。明らかに我を失っていた。プレー中であるにも関わらず、教え子の皆本 晃選手(府中アスレティックFC)に対し、タイベンチの前でコミュニケーションをとってしまうほどだった。


第2戦のタイ代表は、前日のうっぷんを晴らすようにゴールを重ね、アジア最強国の一つであるイランに対して7-5で勝利した。



「今日は、自然と身体が動いていた。昨日の僕は、静かだったと思う。」


イラン戦でのミゲルは、いつものミゲルだった。アリーナの熱狂に触発されて、いつも以上にアグレッシブだったかもしれない。ピッチ上の選手には身振り手振りで、交代で戻ってきた選手には前で立て膝をついて、丁寧に指示を与える。日本でも宿敵であったイランに対して、タイの勝利のみを考えていたらそうなったのだろう。


ミゲル・ロドリゴにとって、このイラン戦はターニングポイントとなるに違いない。今後は迷いも吹っ切れ、タイ代表のワールドカップベスト8に向けた仕事に集中できるのではないだろうか。

(アジアサッカー研究所/長谷川)