• コラム

2016年8月26日 | ベトナム

ベトナムでパイオニアとなった日本人サッカー選手、井手口正昭に続く者は現れるか?

今年はJリーグが推進するアジア戦略の一環として、「ベトナムのメッシ」ことグエン・コン・フオン(21歳)が水戸ホーリーホックに、「ベトナムのピルロ」ことグエン・トゥアン・アイン(21歳)が横浜FCにそれぞれ期限付き移籍を果たした。国民的スターである両選手のJ移籍は、単なるサッカー選手の移籍に留まらず、経済発展著しいベトナム市場をとらえたい日本の官民が連携してのプロジェクトとなり、大きな話題を集めた。しかし、時を同じくして一人の日本人選手がベトナムでの挑戦を始めたことを知る者は少ない。

井手口正昭(28歳)は今季、J2横浜FCからベトナム1部ホアン・アイン・ザライ(HAGL)に完全移籍で加入した。これは、両クラブが昨年末にパートナーシップを締結したことに伴い、人材交流という形で移籍が実現したもの。HAGLからは前述したとおりグエン・トゥアン・アインが横浜FCに期限付き移籍。ちなみに両選手はともにボランチを主戦場としている。

井手口は2011年に阪南大学から横浜FCに入団。2014シーズンは、香港1部夢想駿其足球會(旧横浜FC香港)に期限付き移籍し、2015年に再び横浜FCに復帰したが、2015シーズンはリーグ戦の出場がなく、ベトナムで新たなスタートを切ることになった。

同じ日に同じ会場で行われた両選手の入団会見では、主役は完全にグエン・トゥアン・アインだった。国内で「黄金世代」との呼び声も高いこの年代の中心選手の海外初挑戦だっただけに、ファンやメディアの関心も非常に高かった。一方、この時の井手口への関心は決して高いものとは言えず、戦力的にもあまり期待されていなかった。無理もない話だ。ベトナムでは、これまで日本人選手が成功した例は一度もなかったのだから。


井手口正昭とグエン・トゥアン・アインの入団発表の模様。報道陣の注目は横浜FCに移籍するトゥアン・アインに集中した。

井手口正昭とグエン・トゥアン・アインの入団発表の模様。報道陣の注目は横浜FCに移籍するトゥアン・アインに集中した。


外国人枠がわずかに2枠しかないベトナムにおいて、まず外国人助っ人に求められるのは、他を圧倒するフィジカルの強さである。井手口は身長173cm。ベトナム人と大差ない体格だ。リーグにごろごろいる190cm台のアフリカや南米の助っ人と比べれば、どうしたって見劣りする。

しかし、ふたを開けてみれば、井手口は豊富な運動量と鋭い読みで中盤の守備を引き締め、すぐにレギュラーに定着。先日負傷して記録が途絶えてしまったが、開幕から21試合連続でのスタメン出場はチームにとって不可欠な選手であるという証。課題とされていた攻撃面でも、すでに2ゴールを決めており、最近はベストイレブンの常連(第22節までで4度の選出)にもなっている。新加入の外国人ながら、途中からキャプテンも任されるなど、監督やチームメイトからも絶大な信頼を勝ち取っている。


井手口は開幕から21節連続でスタメン出場。もはやチームに欠かせない選手となっている。

井手口は開幕から21節連続でスタメン出場。もはやチームに欠かせない選手となっている。


井手口が活躍できた要因としては、移籍したHAGLがベトナムでは珍しくポゼッション重視でパスを繋ぐスタイルのため、日本人の井手口がフィットしやすかったというのもあるが、早くからチームに馴染もうとする積極的な姿勢や若手が多いチームにおいて、常に模範になろうとするプロ意識がクラブから高く評価されたということも大きい。井手口には、ちょうど同じ年代の弟(G大阪の井手口陽介)がいるが、練習で若いチームメイトらとじゃれあう姿はまるで兄弟のようでもある。日いづる国から来たサムライ・フットボーラーは、グエン・トゥアン・アインが抜けた穴を埋めて余りある働きを見せ、チームの新しい顔となった。

HAGLは第22節を終えた時点で、8勝11敗3分(勝ち点27)で14チーム中12位につけており、目標としていた1部残留をほぼ確実なものとしている。特に直近4試合では、昨季王者ベカメックス・ビンズオンやFLCタインホアなどの強豪クラブを破って4連勝と勢いに乗っている。今季も残り4試合。リーグ中位までの勝ち点差はわずかに3。ここからのラストスパートで少しでも順位を上げてほしいものだ。そして、今季の井手口の活躍により、ベトナムで日本人選手に対する評価が上がり、来季は彼に続く日本人選手が誕生することを期待したい。

(アジアサッカー研究所/佐藤)