• コラム

2016年12月9日 | タイ

Jリーグ「アジア戦略」の最重要国として位置づけられてきたタイ

dsc_0038 Jリーグが2012年頃から本格的に推し進めてきた「アジア戦略」は、アジアサッカーのレベルアップと経済的な連携を目的としている。まずは、アジアサッカー界の成功例といえるJリーグのノウハウを各国に提供することで日本を取り巻くアジア全体のレベル向上をはかる。そして、経済面ではJリーグというコンテンツをアジアに浸透させることで、これまでは放映権料などの形でヨーロッパに流れていた巨額のサッカーマネーをアジア内で循環させるというビジョンが描かれている。

Jリーグが真っ先に「アジア戦略」のターゲットとしたのが東南アジア。急速な経済成長を続ける魅力的なマーケットであり、もともと高いサッカー熱を誇る地域でもある。なかでも、経済規模やサッカーの実力で東南アジアの中心的存在であるタイは当初から「アジア戦略」の最重要国として位置づけられてきた。タイではちょうど2010年代に入り国内リーグが急速に盛り上がり始めていたこともあり、絶好のタイミングといえた。

Jリーグとタイリーグの提携はリーグ間のみにとどまらず、クラブ間でも盛んに行われてきた。セレッソ大阪、ヴィッセル神戸、横浜F・マリノス、コンサドーレ札幌など多くのJリーグクラブがタイリーグのクラブと提携を結び、さまざまな交流を行っている。アカデミー世代を含めた選手や指導者の交流をはじめ、それぞれのスポンサーを絡めた動きを積極的に見せるクラブも出てきている。

タイのクラブとの提携において、とりわけ興味深い展開を見せているのがセレッソ大阪。Jリーグが「アジア戦略」を立ち上げた直後の2012年3月にタイリーグの強豪であるバンコク・グラスとのクラブ間提携を締結。アカデミー世代の交流やバンコク・グラスの若手選手がセレッソ大阪の練習に参加するなどの活動を継続的に行い、2014年にはセレッソ大阪に所属していた元日本代表の茂庭照幸選手がバンコク・グラスに移籍するという大きな出来事にもつながった。

そして昨年、両クラブの関係はビジネスの面でも大きな一歩を刻んだ。セレッソ大阪のクラブ運営会社の出資者であるヤンマーがバンコク・グラスのスポンサーに、反対にバンコク・グラスを保有する企業と同グループであるタイの大手ビールメーカー「シンハービール」が、セレッソ大阪のスポンサーとなることが発表されたのだ。これはヤンマーのタイにおけるマーケット拡大とシンハービールの日本マーケット拡大を視野に入れたもので、Jリーグ「アジア戦略」を新しい局面に突入させる大きな一歩だった。


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タイリーグのスパンブリーFCと提携を結ぶ横浜F・マリノスも、タイのマーケットを意識した興味深い動きを見せるクラブのひとつだ。「クールジャパン」を掲げる経済産業省と連携して、スポンサーであるジヤトコのタイランド社でサッカー教室を開催。アジア市場に興味を持つ同クラブのスポンサー企業の商品を現地でアピールするなどサッカーを通したアジア進出のサポートを試みている。また、タイの才能ある若手選手の短期留学生としての受け入れや、日本国内でのタイフェアの開催などさまざまな形でタイとの交流を深めることに力を入れている。

人材交流の面でもタイでは他国に先駆けた多角的な動きが見られる。タイリーグ3部のコンケーンFCと提携を結ぶコンサドーレ札幌は若手選手をコンケーンFCにレンタル移籍させる形での育成を展開、2016年にはコンサドーレ札幌のアカデミーコーチや監督、トップチームコーチを務めた三浦雅之氏がコンケーンFCの監督に就任した。また、コンケーンFCの若手選手がコンサドーレ札幌の練習に参加するなど、コンケーンFCから札幌への移籍という展開も視野に入れられている。

さらに、今年8月には東京ヴェルディ1969がタイの育成年代のチームであるアスコットインターナショナルスクールのアカデミーとの提携を発表。アカデミー世代の交流を通して将来的にはタイの優れた才能をJリーグでプレーさせることも見据えられており、育成年代に焦点を当てた新しい動きといえる。

2016年11月現在、タイからのJリーガーはまだ生まれていない。だが、2016年のシーズン開幕前にはタイ代表の中心選手であるチャナーティップ・ソンクラシーンにFC東京がオファーを出すなど、タイ人Jリーガー誕生へ向けた具体的な動きがうかがえる。実現すれば、タイにおけるコンテンツとしてのJリーグの価値が高まるのは確実だ。「アジア戦略」の中心地であるタイでそれが起きた時、Jリーグと東南アジアの関係はまた新たなフェイズに入っていくだろう。

(アジアサッカー研究所/本多)

※ 本稿は「ハーバービジネスオンライン」にも掲載しています