• コラム

2016年12月23日 | 香港

ACLのストレートイン枠を巡る水面下の大騒動。香港の東方は出場するのか?

oriental-appleアジア最古の「サッカー協会」「サッカークラブ」「国内リーグ戦」「国内カップ戦」などの称号は、すべて150年以上に渡って英国の統治下にあった香港に与えられているものである。

19世紀の終盤から20世紀の初頭に掛けて、英国の船舶が寄港する世界中の港町から瞬く間に広まったサッカー。香港はアジア諸国の先頭に立ってサッカーを牽引する立場にあったことは、現代のサッカーファンの間ではあまり知られていない。

アジアサッカー連盟発足時のオリジナルメンバーの香港は、サッカー発祥の地でもある英国による統治の時代から、20世紀末の中国への主権返還を経て現在に至るまで、アジアのサッカー勢力の観点においては、相対的な地位を徐々に落としてきた。

近年、香港サッカーは、国家主導による中国スーパーリーグの勃興や、Jリーグなどとの提携事案によるアセアン諸国の台頭に、後塵を拝する立場に追いやられている。しかし、ここにきて古豪復活とばかりに、かつての繁栄の日々を奪還するべく、巻き返しの攻勢に出ていることを解説する。

12月の中旬、アジアサッカー連盟は、クラブチームのアジア王者を決める大会である「AFCチャンピオンズリーグ(以下、ACL)2017」の組み合わせ抽選会を開催した。

この大会の過去10年の戦績は、2011年を除き、韓国、日本、中国、豪州の東地区のクラブチームが制しており、勢力分布の構造では「東高西低」の10年だったと言える。この4ヶ国は東地区の強豪国(1〜4位)として、毎年安定した大会出場枠(数)を確保している。

出場枠(数)については、アジアサッカー連盟が集計する「加盟協会ランキング」に基づいて振り分けられている。例えば、今年は上述の4ヶ国に加えて、5位のタイと6位のベトナムに出場枠が与えられた。このように東地区ではランキング上位の国に、グループステージ枠とプレーオフ枠が割り当てられる仕組みだ。

因みに、筆者の暮らす香港は、ここ数年間はタイとベトナムに次ぐ位置に付け、マレーシアやシンガポールなどとランキングを争っていたのだが、今年に入り6位のベトナムを、7位に付けていた香港がついに上回ったのだ。

発表された「ACL2017」のグループGの組み合わせを見て頂きたい。第1ポット:広州恒大(中国)、第2ポット:水原三星ブルーウィングス(韓国)、第3ポット:日本第三代表(浦和レッドダイヤモンズまたは川崎フロンターレ)、第4ポット:東方(香港)。

香港王者(香港の第一代表)の東方が、ついに「ACL」の出場枠(ストレートイン枠)を獲得。香港勢としては史上初の出場となる快挙だ。前身のアジアクラブ選手権の頃は、香港のクラブチームは大会の常連勢力だっただけに、香港のサッカー界は大いに盛り上がっている。

香港の国内リーグ(プレミアリーグ)は、秋から翌春に掛けて開催する秋春制で行なわれており、東方が香港王者となった5月の段階では、まだ「ACL」にストレートインすることは確定していなかった。ベトナムと香港の順位の入れ替わりが明らかになったのはオフになってからで、東方はプレシーズンに向けて活動予算の準備と戦力の補強を急ぐことになる。

ところが、リーグの開幕を控えた東方に想定外の激震が走る。これまで活動を支えてきたメインスポンサーが突如撤退を発表して、東方はリーグへの参戦を一旦白紙に戻した上で、念願であり目標だった「ACL」参戦を辞退表明したのだ。

この東方の辞退に、香港サッカー協会は即座に対応した。第二代表だった傑志を第一代表に繰り上げ、第二代表の枠に次点扱いだった南區を繰り上げて、アジアサッカー連盟に通知したのだ。

メインスポンサーを失った東方は活動資金集めに奔走して、リーグ開幕前までに新スポンサーを獲得。限られた予算の中でリーグ戦に照準を絞った。一方で繰り上がった傑志と南區は、アジアサッカー連盟の正式承認がないままの状態で、活動予算の補正と戦力の補強に動かざるを得ず、事態の推移を伺いながらリーグ戦を消化していくこととなる。

しかし、香港サッカー協会の目論みは、アジアサッカー連盟からの1通のメールで、見事なまでに外されることになる。11月も終わろうとしていた時期になってから、傑志と南區の繰り上げ非承認を決定した上で、香港サッカー協会が第一代表枠を辞退したと判断、その枠(ストレートイン枠)を中国または豪州の第三代表に振り替えると通知してきたのだ。

この噂(事実)は瞬く間に当事国を駆け巡り、ストレートイン枠の振り替えによって、グループステージの組み分けが大きく変動する可能性が出てきたことで、「ACL2017」に出場するクラブチームと、試合観戦を予定している大勢のサポーターも巻き込んでの大騒動に発展する。

最悪の事態に陥った香港サッカー協会は、メール着信当日の深夜に緊急理事会を招集。そして、彼らが捻り出した策は、「ACL」への出場を辞退していた東方の名義を担ぎ出し、第一代表を東方に、第二代表を傑志に戻して、アジアサッカー連盟に再通知することを決定したと、驚くべき内容を未明に発布したのだ。

アジアサッカー連盟は、最終的に香港サッカー協会の再通知を承認。第一代表の東方がグループステージへのストレートインを果たし、第二代表の傑志も予選2回戦からの出場を確定した。

東方の活動費用がどのように賄われるのかは詳しく知らないが、少なくとも参加するクラブチームの中では最も低予算の体制で大会に臨む、ということは間違いない。それでも、現役香港代表選手と、香港ではトップクラスの外国人選手を並べる東方が、アジアの列強とどこまで対峙できるのか、グループGの戦いに注目だ。

因みに、この東方を率いる指揮官は、世界で初めて男子のトップリーグを制した女性監督として、一躍時の人となった陳婉婷だ。彼女の存在は、話題性の観点では大会随一かもしれない。

(アジアサッカー研究所/池田)

※ 本稿は「ハーバービジネスオンライン」にも掲載しています