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2017年1月21日 | タイ

2016年を振り返る/経済でもサッカーでも東南アジアを引っ張るタイ


DSC_04882016年10月13日、タイのプミポン国王が崩御した。世界最長の在位70年を誇り、タイの象徴でもあった偉大な王の死に国中が悲しみに包まれ、多くの国民は自主的に黒い服を身につけて喪に服した。スポーツ界もその影響を受け、サッカーのタイリーグは3節を残してシーズンを終了。カップ戦も含めて、2016年に予定されていた残りの試合は全てキャンセルとなった。

「東南アジアの優等生」といわれ順調な成長を続けるタイは近年、生活水準の向上とともにスポーツ界の発展も著しい。その象徴ともいえるのがサッカーで、2010年代に入り急成長を遂げた国内リーグの盛り上がりを背景に代表チームも急激に力をつけている。Jリーグがアジアの国々との連携をはかる「アジア戦略」でも真っ先に提携を結んだのがタイリーグで、サッカーにおいてもタイは東南アジアのリーダー的存在だ。

昨年はタイ代表がアジアトップレベルの舞台に本格的に登場、Jリーグの「アジア戦略」と絡んだ日本との関係性においても新たな展開が見られた。今、アジアの中で着実に存在感を高めているタイサッカー界の2016年を振り返る。


アジアで存在感を高めるタイ代表

タイサッカーの台頭を最もわかりやすく示しているのがタイ代表の活躍。アジアトップレベルの争いには加われない時代が続いていたが、ここ数年の急成長で状況は一変した。2016年はリオデジャネイロ五輪予選、ロシア・ワールドカップ予選と続けて最終予選まで進出。アジア上位の勢力図にタイが加わったことを印象づけた。

ワールドカップのアジア予選では、2次予選を無敗で首位通過。中東の強豪であるイラクの優位が予想されたグループだったため、タイの快進撃は驚きを与えた。タイが最終予選に進出したのは2002年の日韓大会予選以来2度目のこと。だが、前回は日本と韓国がホスト国のため予選を免除されていたという特殊事情があっただけに、実質的には初の快挙と言うこともできる。

ワールドカップのアジア最終予選では前半戦を終えて1分4敗と苦戦を強いられているが、ホームのオーストラリア戦では現アジア王者の強豪を相手に堂々たる戦いぶりで勝ち点1を獲得。現在グループ首位に立つサウジアラビアにもアウェイで0-1と惜敗したものの対等な戦いを見せており、今年3月に再開される後半戦に期待を抱かせる。

また、年末には2年に一度開催されるAFFスズキカップ(東南アジア選手権)で2連覇を達成、単独で大会最多となる5度目の優勝を飾った。貫禄を感じさせる勝ち上がりはこれまでとはひと味違うもので、東南アジアでは頭一つ抜けた存在となったことを感じさせた。


大企業をバックに持つクラブが台頭

プミポン国王の崩御により唐突なエンディングを迎えたタイリーグでは、ムアントン・ユナイテッドが4年ぶり4度目の優勝を決めた。2015年シーズンまではブリーラム・ユナイテッドが3連覇を達成、国内主要タイトルの大半を獲得する独壇場だっただけに潮目の変わるシーズンとなった。

ムアントン・ユナイテッドはもともとタイを代表するビッグクラブだが、2016年シーズンは開幕を前に大きな変化があった。母体企業であるタイの大手メディア「サイアム・スポーツ」が、同じく名門のBECテロ・サーサナを買収。同クラブに所属していた多くのタイ代表選手が移籍してきたことで、スタメンのほとんどをタイ代表の主力が占める「ドリームチーム」が誕生。その結果のリーグタイトル奪還だった。

最後までムアントン・ユナイテッドと優勝を争ったバンコク・ユナイテッドの台頭も特筆に値する。母体企業である大手通信会社「トゥルー・コーポレーション」が本格的にクラブ強化に乗り出したことが好結果を生んだ。地元の名士であるネーウィン氏がオーナーを務めるブリーラム・ユナイテッドを筆頭に政治家や実業家が経営権を持つチームが多いなか、大企業がバックアップするクラブ同士による優勝争いは新たな潮流を感じさせた。

大企業といえば、本田技研工業のタイ法人であるタイ・ホンダが母体となる「タイ・ホンダFC」が2部リーグで優勝、1部昇格を果たしたのも大きなトピック。タイリーグは1部リーグのスポンサーをトヨタが、2部リーグのスポンサーをヤマハが務めるなど、さまざまな形で日本企業が関わっているが、日系企業を母体とするクラブは珍しい。今後の展開が注目されるチームの一つだ。


ついに誕生したタイ人Jリーガー

12月には日本との関係において大きな動きがあった。「タイのメッシ」と呼ばれるタイ代表の主力選手、チャナティップ・ソングラシンが今年7月から1年半のレンタルでコンサドーレ札幌に移籍することが決定。Jリーグの「アジア戦略」を推進するためにも待望されていたタイ人初のJリーガーがついに誕生した。
チャナティップは人気と実力を兼ね備えるタイのトップ選手で、すでにタイ国内では大変な注目が集まっている。この移籍によってタイでJリーグへの関心が高まることは確実で、移籍の噂が流れた時点からJリーグ側には放送についての問い合わせが寄せられているという。放映権料はもちろん、スポンサーの獲得やタイ人観光客の誘致などビジネス面でもさまざまな効果が期待される。
クラブレベルでも日本とタイの交流は盛んで、2016年もさまざまな展開が見られた。セレッソ大阪は、クラブ間提携を結ぶバンコク・グラスとの間でプレシーズンマッチを開催。セレッソ大阪側のヤンマー株式会社、バンコク・グラス側のシンハー・コーポレーションとそれぞれのスポンサーを冠に「シンハーヤンマーカップ」と銘打って行われた。
10月のJリーグ中断期間には鹿島アントラーズが強化トレーニングキャンプとしてタイを訪れ、タイリーグのクラブとの親善試合を実施。この1月にはその鹿島と横浜Fマリノスが参加し、Jリーグが主催する初の大会「2017Jリーグ アジアチャレンジ inタイ インターリーグカップ」がバンコクで開催されることも決まっている。
日本との関係を深めながら、躍進を続けるタイのサッカー界。初のタイ人Jリーガーが誕生する2017年は、さらに目が話せない年となりそうだ。

(アジアサッカー研究所/本多 辰成)

※ 本稿は「ハーバービジネスオンライン」にも掲載しています