• コラム

2017年1月30日 | 中国 | 台湾 | 香港

2016年の大中華圏サッカー界(中国・香港・台湾)を振り返る

〈中国〉

2016年は、習近平国家主席の鶴の一声から始まった「中国足球改革発展総体法案」の、事実上の施行元年にあたり、中国サッカー界は沸きに沸いた。中国人民が、代表戦以上に熱狂するACL(AFCチャンピオンズリーグ)での戦いぶりから、「爆買い」で世界を席巻する中国スーパーリーグ、マルチェロ・リッピ降臨の中国代表の現在地、最後に中国サッカー界で活躍する日本人の動向を総括する。

まずはACL2016から。名将スコラーリ監督率いるアジア王者広州恒大と、アレックス・テイシェイラなどを補強して臨んだ江蘇蘇寧は、グループリーグで敗退したものの、中国の至宝武磊(ウー・レイ)を中心に、ダリオ・コンカやエウケソンといった、実績十分の攻撃陣を擁する上海上港と、スーパーリーグでは下位に低迷する山東魯能が、グループリーグを突破した。その後、両クラブは準々決勝(東地区の準決勝)まで駒を進めたが、共に韓国勢に大敗を喫して大会から姿を消した。ACL2017には、広州恒大と江蘇蘇寧がグループステージから、上海上港と上海申花がプレーオフから出場する。

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次に「爆買い」が最高潮に達している中国スーパーリーグを。2016年も、世界的名将の招聘が相次いだが、特に目立った戦績を残した監督がいないため割愛する。むしろ、世界的名将に入り混じって、5人もの韓国人監督が指揮を執っている事実を明らかにすべきだろう。洪明甫率いる杭州緑城は、降格の憂き目に遭ったが、彼らは実に現実的な報酬で招聘されており、その上で、世界的名将相手にしっかりと対峙している。中国では、韓国人監督の招聘がひとつの選択肢になりつつある。

リーグ優勝は広州恒大。リーグ開幕前に、エウケソンを上海上港に放出するなどしたが、ACLをグループステージのみで終えたことで、試合日程に余裕が生じての独走となった。アトレティコ・マドリードからジャクソン・マルティネスを補強したが、この補強がまったくの不要だった、と言える程の戦力の充実ぶりで他を圧倒した。また、リーグ2位で終えた江蘇蘇寧も、中国最大手家電販売の蘇寧電器(SUNING)の豊富な資金力で大補強を敢行。シーズン途中に指揮官の交代劇もあったが、上海勢の猛追を振り切った。尚、親会社の蘇寧電器は、長友佑都の所属する、イタリア・セリエAの名門インテルナツィオナーレ・ミラノの買収にも成功している。

河北華夏幸福、延辺富徳の昇格組は、リーグ中位でフィニッシュした。資金力の河北、韓国パワーの延辺と言ったところか。因みに河北はシーズン途中で、来シーズンへの布石として、指揮官にマヌエル・ペジェグリーニを招聘している。一方で、杭州緑城や石家荘永昌といった低予算クラブが、リーグの残留争いに敗れ、2部(甲級)リーグに降格した。「爆買い」に興じないクラブがスーパーリーグから姿を消す。実に象徴的な結果だったと言えよう。

低迷の続く中国代表は、足元に絡み付く香港代表の抵抗に遭った影響で、ワールドカップアジア2次予選を、僅差の2位で辛うじて通過。しかし、最終予選は年内未勝利でグループ最下位。既にワールドカップ・ロシア大会への出場は、絶望的な状況にある。中国サッカー協会は、高洪波監督の解任に踏み切り、広州恒大への復帰が既定路線だったマルチェロ・リッピを、三顧の礼で代表監督に迎えた。リッピは既に指揮を執り始めているが、招聘は2022年のワールドカップ・カタール大会出場に向けての布石だ。

その一方で、中国女子代表は、リオデジャネイロ五輪のアジア最終予選で、なでしこジャパン(日本女子代表)などを破り五輪本大会に出場した。本大会でもクループリーグを突破して、8強進出を果たしている。

最後に、中国サッカー界における、日本人監督と選手の動向について。2016年シーズンは、中国スーパーリーグで指揮を執る日本人監督と、プレーする日本人選手は共にゼロであった。トップチームの括りでは、ドラガン・ストイコビッチ監督率いる広州富力で、コーチを務める喜熨斗勝史氏と、杭州緑城のアシスタントコーチを務める小野剛氏、シーズン後半からは池田誠剛氏もトップチームに帯同した。

当研究所が把握している範囲では、その他にも、杭州緑城と河北華夏幸福のユースコーチに複数名、3部リーグ銀川賀蘭山のトップチームに3名、女子1部の江蘇女子ユースチームに1名、女子2部浙江女子と広東女子のトップチームに複数名、及び、喜熨斗氏が兼任する広州富力のユースアカデミーに複数名の日本人コーチが在籍している(いた)ことを確認した。

また、日本人経営の民間サッカースクールが、上海や深圳などの沿岸都市などに点在。特に上海では、本田圭佑プロデュースのソルティーロ・ファミリア・サッカースクールが本格進出を果たして、既存の日系スクールを大いに刺激している様子だ。


〈香港〉

2016年の香港サッカー界は、香港プレミアリーグの覇者東方(イースタン)の、ACL2017(AFCチャンピオンズリーグ)への初出場が決定したことが、年間最大のトピックとなった。途中、東方内部のトラブルから参加辞退騒動に発展したが、無事、大会へのストレートインを決めた。2015年の12月にアシスタントコーチから昇格した陳婉婷が、指揮官として率いる東方は、香港ではトップレベルの財政力でかき集めた、香港代表選手と外国人選手を並べて、傑志(キッチー)や南華(サウスチャイナ)らの猛追を退けて、リーグタイトルの栄冠を手中にした。

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そして陳婉婷監督は「世界で初めて男子のトップリーグを制した女性監督」として、アジアサッカー連盟の「2016年アジア最優秀女性監督賞」や、英国BBCの「2016年の世界の女性100人」に選ばれるなど、一躍時の人となった。東方はACL2017のグループGで、広州恒大(中国)、水原三星(韓国)、浦和レッズまたは川崎フロンターレ(日本)と対戦する。なお、東方の主催試合は、九龍サイドの旺角大球場(モンコック・スタジアム)で開催される。

韓国人の金判坤監督率いる香港代表は、多くの香港帰化選手を積極的に登用して、ワールドカップアジア予選に臨んだが、最終予選進出はならなかった。また、東アジアカップ予選でも北朝鮮に惜敗を喫して、本大会への出場は叶わなかった。

日本サッカー協会と香港サッカー協会は、2016年の12月に、両協会のパートナーシップ協定の締結を東京都内で発表した。指導者の養成、審判の育成、フットサル、および女子サッカーの分野における協力と相互実施を行なうこととなっている。


〈台湾〉

2016年の台湾サッカー界最大のサプライズは、4年半に渡り台湾サッカー発展の種まきに尽力していた、兵庫県滝川第二高校、ヴィッセル神戸育成担当を歴任した黒田和生氏が、台湾サッカー男子代表監督に就任したことがあげられる。香港で開催された東アジアカップの予選第2ラウンドから指揮を執り、北朝鮮、香港、グアムと戦い1勝2敗。次回大会の予選2次ラウンドの出場権を獲得した。2017年はAFCアジアカップ予選、そしてユニバーシアード台北大会での、ホストチームとしての躍進が期待される。

大会の開催にあたり、台北市周辺の試合会場の天然芝ピッチが、FIFA公認規格を含む10面の人工芝ピッチに改修された。台湾サッカー関係者の間では、大会終了後の施設の運営について、侃々諤々の議論が交わされている。10面もの人工芝ピッチができたことにより、育成年代を含めた試合環境の創出が可能となるためだ。

台湾の小学生年代のメジャー大会は3つ、それ以外も、各自治体、企業、街クラブが主体となって大会を運営している。その中で最大規模を誇るのが「YAMAHAカップ」である。2009年から始まった同大会は、今年で8回目を迎え、史上最多の313チームが参加した。各地区の予選を突破したチームは、来たる1月に開催される全国大会で優勝を争う。期間中は、ジュビロ磐田のコーチ・選手によるサッカー教室も開催される。

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黒田和生氏によるこれまでの活動を振り返ると、台湾サッカー発展の鍵は日本式であると考えられる。2017年は代表強化、選手・指導者育成、大会運営などで、台湾人と日本人が手を取り合い、台湾スタイルを築く飛躍の年になるに違いない。


※ 本稿は「ハーバービジネスオンライン」にも掲載しています



池田 宣雄(いけだ のぶお)
1970年生まれ、神奈川県茅ケ崎市出身。都内の大学で中国語を学び、1992年に入社した大手物流会社で上海勤務。2002年に香港にてビジネスコンサルタントとして独立。2012年からフットボールコーディネーターとして、日本人指導者や選手たちの海外移籍の仲介や、サッカー専門誌などでの執筆活動を開始。AFCB香港紫荊會(www.afcb.biz)代表。香港サッカー協会アソシエイトメンバー。香港在住。

松下 勇亮 (まつした ゆうすけ)
上海・北京・天津・台北・ジャカルタにてサッカースクールの立ち上げに携わる。スクール運営、大会イベント企画運営、遠征コーディネートを中心に、日本・中国・台湾のプロ下部組織、代表チームなどの交流に従事。拠点である台湾では各地域のサッカー委員会の顧問として台湾サッカー発展に注力している。中華圏でのサッカー関係者のパイプは日本一を誇る。