• コラム

2014年11月13日 | シンガポール

【イベントレポート】日本・シンガポールサッカーメディア座談会[前半]

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2014年10月、日本代表vsブラジル代表が行われたシンガポールにて、アジアサッカー研究所(Institute for Future Asian Football)が、日本のメディアと現地シンガポールのメディアを集めた座談会(Singapore Japan Media Talk)を実施した。

両国の大手新聞社やインターネットメディアなどの記者が一堂に会し、シンガポール・日本およびアジアの未来のサッカーの発展のために、今後どのようなことが求められるかをディスカッションした。

当研究所では、この座談会を通じて、普段コミュニケーションが少ない日本と現地のサッカーメディアが話し合える機会を提供することで、両国およびアジアの相互理解が進み、お互いのサッカー界の発展の礎となることを目的として企画を行った。

座談会は基本、英語で進行されたが、適宜日本語でも概要が訳されるなどして、双方向のコミュニケーションが生まれていた。また、座談会の前には交流フットサルが行われ、言語によるコミュニケーションバリアを外したことが効果的であった。

<座談会アジェンダ>

・ 日本サッカー界の現状と課題/シンガポールサッカー界の現状と課題
・ シンガポールが日本サッカーに聞きたいこと
・ 日本がシンガポールやアジアに聞きたいこと
・ まとめ


<座談会ファシリテーター自己紹介>

四方 健太郎(アジアサッカー研究所/F.C. ASIA)
kenyomo私はJリーグがアジアのプロリーグの中でベストだと思っている。しかしながら現在、Jリーグをより良いリーグにしていくために、まだまだ課題があると思う。そのうちの1つは我々のフットボールのマーケットを、シンガポールを含めた東南アジアで拡大していく必要があるということ。私は以前、2010年のワールドカップに合わせて「世界一蹴の旅」をやって、世界中にたくさんの友人ができた。それはとても良い経験で、そこで得たネットワーク・知見を還元したいと考えています。つまりJリーグおよび日本サッカーが、どのようにアジアの人と協力して、ともに発展していけるかを模索していきたいということです。日本のサッカーコミュニティは極端に閉鎖的で、なかなか海外のローカルサッカーコミュニティと交流できない。多くのファンやサッカー関係者が日本から多く訪れるシンガポールでのブラジル戦は、まさに良いチャンスだと考えており、この座談会を企画しました。


ジュン・タン(JUNPITER FUTBOL)
juntan私はシンガポールサッカーのためになるような情報を配信するために、JUNPITER FUTBOLというサイトを3年前に立ち上げました。シンガポール代表はスズキカップのディフェンディングチャンピオンで、東南アジアの中で強豪チームです。しかし、Sリーグに関しては予算や練習の環境の問題で思うように上手く進んでいません。Jリーグが先行して成功しているため、そこから学ぶことはあるのではないかと思っています。元々サッカーのプロ選手でしたが、自身のキャリアを考えて現在は別の仕事に就いています。それでも自分のシンガポールサッカーへの想いが強く、このウェブサイトを立ち上げました。日本にも何度も取材に訪れています。



斉藤 泰一郎(Global Football Academy/GFA Soriya)

taisaito私は1999年に初めての日本人プロサッカー選手としてシンガポールでプレーし、以降でアフリカのガーナやオーストラリでもサッカーをする機会に恵まれ、たくさんの国々を選手として訪れることができました。そしてサッカー選手を引退した後、その経験をいかして2009年にシンガポールで仲間達とサッカー事業会社”Samurai Pte Ltd“をスタートしました。2012年にはカンボジアにもサッカー事業会社”GFA Soriya“を設立しました。サッカーの可能性は無限大にあると思っています。サッカーボールは色んなものをつなげ、ポジティブなエネルギーを運び、多くのものを惹きつけます。その素晴らしさを少しでもたくさんの人々に届けたくて、現在はサッカースクール、サッカーイベント、スポーツマーケティング、そしてサッカーを通じた地域貢献活動などを東南アジア各国で取り組んでいます。ボールを通じた素晴らしい出会いが、サッカーと、人生を、今より素敵なものにしてくれると信じています。


■ 前半:シンガポールからの質問

Q1:Jリーグが20年間で急速に成長した要因は?

− Jリーグ開幕は93年、Sリーグは3年遅れて96年にスタート。
− Sリーグの1試合の平均入場者数は1,000人くらい。J1は1万8千人くらい。
− Jリーグはライセンスが厳しいので、J1のスタジアムは最低1万5千人、J2は1万人入れるスタジアムが必要。
※以下、(J)は日本メディアの発言。(S)はシンガポールメディアの発言。

(J)競技面から見ると、育成の体制がきちんとできたことが大きい。コーチのライセンス制度とか。ビジネス面については説明が難しく、簡単には答えられない。

(J)時代的な背景も大きく関係している。Jリーグ設立時は、バブルが終わった直後だったが、まだ企業に元気があって、スポーツに使えるお金があった。スポーツといえばプロ野球しかなかった時に、真新しい、かっこいいものができたという高揚感があった。設立が1993年の5年前でも5年後でも難しかったかもしれない。

4(S)Jリーグが始まったそのタイミングは意図的に狙ったのか?

(J)2002年のワールドカップ開催という大きなビジョンに向かって創られた、という意味では狙ったものではあった。02年にワールドカップがある。10年後に向けて、日本代表を強くしなきゃいけないという大命題があった。

(J)一方で、偶然だったという側面もある。企業が元気な時期に計画されて、92年にナビスコカップがスタートしたが、94年を境に企業の元気がなくなっていった。バスケ業界は95年か96年にプロリーグをスタートさせようとしたが、頓挫してしまった。結果として、未だにバスケのプロリーグはない。

(J)強力なリーダーシップを持った人(川淵氏)がいたのも大きかった。日本でもまだプロリーグを立ち上げるのは時期尚早という人はいた。しかしそこで半ば強引にでも推し進めたことによってJリーグを開幕させることができた。

(J)お金が動くことで外国の良い選手が入ってきた。当時のJリーグは今で言うと中国や中東のクラブのようにスーパースターがたくさんやってきた。そのスター選手による影響と日本の育成組織(ユースチーム設置を義務づける、コーチングライセンスなど)の充実がサッカー界を発展させた。優秀な外国人選手と育成組織、この二つを兼ね備えた状態でスタートできたことで競技力を一気に押し上げることができた。

(J)シンガポールは金をたくさん持っているのに、なぜスポーツに投資しないのか?

(S)ビジネスはビジネスだから。確かにシンガポールの企業は金を持っているが、サッカーにつぎ込むという企業はほとんどない。

(S)企業文化が日本とは違うように思える。結果を先に見せないと、シンガポールの企業は投資しない。鶏と卵の関係になってしまっている。マレーシアとも違う。マレーシアは企業がお金を先に投資することもある。また、それらについては選手契約についても影響しておりシンガポールは単年契約の選手が多い。

(J)シンガポールは他民族国家であり、例えば過半以上をしめる中華系民族の選手が代表でプレーすることにより、より多くの投資をサッカー界に引き出すなどということはないのか?

(S)個人的な見解として、根はもっと深い話で、スポーツはパッションのためで、金の為にやるものではないという考えがある。サッカーでどれくらいもらえるのか?シンガポールは超学歴社会。サッカーよりもたくさん勉強して良い仕事を得て、家族の役に立ちなさい、というのが保護者の考えで、そういった回りの環境のなかでシンガポールの子供達はみんな育っている。

(J)日本ではたくさんの企業がスポンサーをしている。サッカークラブのある地域の企業がスポーツをサポートしようという意識、コンセンサスがある。例えば、京都サンガは地場企業である京セラが投資を行っていて、サッカークラブを通じて京都の社会に還元する。シンガポールの政府がもっと啓蒙して、文化としてのスポーツを育てていくという方法はあるのではないか。

(S)シンガポールは国として小さく(東京都23区くらいの大きさ)、地域特性がないため、東に住んでいるからといって東のチームをサポートするということはない。「俺は西の出身だから東のチームはくそったれだ」というようなダービーで盛り上げる雰囲気はできあがらない。

(S)もう一つ、シンガポールリーグというのは、マーケットとしてプレミアリーグやその他の海外リーグが競合になっている。シンガポールのフットボールファンが何について詳しいかというと、ローカルチームの選手ではなく、プレミアリーグの選手やチームの情報のほうが詳しい。つまりマーケットとして立ち向かわなければならないのは、他のローカルチームや国内の他のプロスポーツではなく、プレミアリーグをはじめとした海外リーグだというのが現状だ。

(J)今の意見はいい示唆ですよね。Jリーグの開幕はタイミングが良かったという話に通じる。93年はまだヨーロッパのマーケティングはアジアに対して進出していなかった。今から同じ事をやろうとすると、やはり競合はプレミアリーグなどになってしまう。

(S)シンガポールのサッカーファンは、生まれる前からリバープールファンって人が多いですよ。なぜならお父さんがリバープールファンで強制的に試合を見させられますからね(笑)

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Q2:現在、Jリーグが直面している課題は何か?

(J)多くの日本代表でプレーするような有名選手が海外移籍をしてしまい、国内リーグの空洞化が進んでいる。

(J)本田や香川のような国民的スター選手、人を呼べる選手が国内に少なくなると、テレビ放送がされない、スポンサーも離れる、その結果としてライトユーザーがJリーグを見なくなっている。

(J)Jリーグは未だ企業スポーツの枠から出ていないと考えている。地域密着をうたい、20年間で急激な成長をしたと思われているかもしれないが、実態では企業への依存という点でプロ化以前の時代と変わっていない。もし赤字になったら、費用の補填は親企業がないと不可能だ。今年、セレッソ大阪がディエゴ・フォルランを獲得したが、あれも「ヤンマー」や「スカパー!」のお金がなければそんなことはできなかっただろう。

5(S)マーチャンダイズ(物販)と放映権の状況はどうなっているのでしょう?

(J)Jリーグではマーチャンダイズと放映権の収入の割合は半々くらいになっている。もちろん、チームによって差はある。

(S)Sリーグはマーチャンダイズがほとんどない。

(S)Jリーグ出身の選手が外国に出て行くことは良いことではないのか? Jリーグの株も上がるし、ローカルのプライドにもなると思われるが。

(J)選手にとっては良いこと。高い報酬をもらえたりする。だが、Jリーグのプロモーションから見ると決して良いことばかりではない。

(J)おそらく海外に行った選手は、成長の過程であり、海外でプレーした後は日本に帰ってくるはずだが、そういった帰ってくる選手をどれだけ受け入れるかで善し悪しが決まると思っている。Jリーグのクラブは、ヨーロッパのビッグクラブに行った選手を受け入れられるだけの予算を持つ必要がある。

(J)横浜F・マリノスでプレーする中村俊輔選手は、そのスター選手のサクセスモデルと言える。

(J)そもそも、チーム経営においてスター選手は絶対に必要な要素なのだろうか? アルビレックス新潟の地域振興策というのは、スター選手がいなくてもうまくやっているように見える。

(J)「街にサッカークラブがある」ということがテーマなら10億円規模のクラブ運営でいいだろう。ただ、いままだJリーグには無い「100億円規模のクラブを作る」となると、一つの方法だけでは難しい。

(J)現在、Jリーグは34節あるが、スタジアムで年間観戦回数のアンケートを取ると、「15回以上観戦」という数字が圧倒的に多い。どういうことかというと、15回って言うのはほぼ全てのホームゲームの数であり、ファンはコア化しているのが数字として表れている。そのようなファンは「スカパー!」にも加入するし、マーケティング的にコアなファンの世界観でものが語られ、非常にクローズドな状況となっている。一方、「スカパー!」に入っていない人にとっては、Jリーグの試合が行われていることすらも知られていない状況だ。スター選手や日本代表の選手がもう少しJリーグでプレーしないと、一般の人の目がJリーグに向かない。


前半のまとめ

“Jリーグはヨーロッパサッカーのアジア進出前にスタートできたため、国内のマーケット開発と競技力の向上で独自の成長を遂げた。しかし更なるブレイクスルーを考えるのであれば、プレミアリーグのメガクラブにも対抗しうるクラブが必要であり、その為には魅力的な試合コンテンツ作りを前提とした複数の手段を講じる必要がある。”

後半につづく

(アジアサッカー研究所 長谷川/四方)

 ■お知らせ■

第3回アジアサッカーキャリアセミナーを11月25日(火)19時半〜、東京・千代田区で開催します。ゲストスピーカーにはJリーグアジア室より、山下修作氏をお招きいたします。詳しくはこちらをご覧下さい。 http://ja.ifaf.asia/news/469