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2015年9月28日 | 日本

セレッソ大阪がシンハービールとトップパートナー契約! その背景にあるバンコク・グラスとの関係とは?


アジアのマーケット開発にもっとも積極的なJクラブの一つであるセレッソ大阪が、9月23日(水)にヤンマースタジアム長居で行われたホームゲームにおいて、タイのビールメーカー「シンハービール」とのトップパートナー契約締結を発表、スタジアム販売などの活動を開始した。


シンハーは1933 年にタイで誕生し、タイ王室の象徴ガルーダを冠する由緒あるプレミアムビールで、世界50カ国で愛飲される国際ブランドである。サッカーシーンにおける力の入れようは有名で、イングランドプレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドとチェルシーのスポンサーをしていることは、タイのみならずマーケットの動向に敏感な世界のサッカーファンの知るところだ。


セレッソ大阪のスポンサーシップ構造におけるトップパートナーとは、ヤンマーや日本ハムに並ぶ最上位カテゴリであり、セレッソは今後、シンハービールに対して“全面的に”協力していく。長居で行われた記者発表にはシンハービールのChutchai Wiratyosin(チャットチャイ・ウィラッヨーシン)副社長が来日して登壇、「世界的に有名なクラブになって欲しい」と語り、両者の良好な関係と本気度の高さを伺わせた。


このスポンサー契約の締結には、セレッソ大阪とタイプレミアリーグのバンコク・グラスとのクラブパートナーシップが大きく作用している。このポイントについて掘り下げてみたい。


大阪サッカークラブ株式会社の玉田 稔代表取締役(左)とシンハーコーポレーションのチャットチャイ副社長(右)


セレッソ大阪とバンコク・グラスがクラブパートナーシップを締結したのは2012年3月。Jリーグから「アジア戦略」というプロジェクトが掲げられた直後に発表された。


提携当初、両クラブのその目的はおもにアカデミーの強化にあった。グラスは多くの有能な選手を生みだすJクラブの育成の仕組みを欲しており、セレッソは継続的なアカデミー強化のため、アジアにおける足場を欲していた。将来的なトップチーム間での選手交流なども構想した。


足掛け3年、相互協力の試行を重ね、サッカークリニックの実施から茂庭選手の移籍までさまざまな事例を作っていくなかで、クラブ同士に信頼関係が生まれていった。その結果、競技育成の交流からビジネス面の交流に発展したのが本契約なのだ。


実はシンハービールがセレッソのサポートを発表する10日前の9月14日(日)、タイの首都バンコクにあるグラスのホーム・LEOスタジアムにおいて、ヤンマーがグラスのスポンサーとなることを発表している。この一連の動きを簡単にまとめると、「バンコク・グラスがタイにおけるヤンマーのマーケット拡大を助け、セレッソ大阪が日本におけるシンハービールのマーケット拡大を助ける」、ということになる。


ご存知のとおりセレッソ大阪は、前身がヤンマーディーゼルサッカー部であり、ヤンマーはクラブ運営会社の出資者だ。バンコク・グラスは、シンハーの瓶(Glass)を製造するバンコク・グラス・インダストリー社が保有するサッカークラブで、同社はシンハービールのグループ企業である。


日本とタイ、それぞれのクラブのメインスポンサーが、相手国でのマーケットを広げるために提携サッカークラブを使っていくというこの手法は、両国のサッカービジネスにおいて大きな一歩であり、海外クラブとパートナーシップを結ぶJクラブにとって、一つのモデルケースとして大いに参考にすべき事例となるだろう。


バンコク・グラスとヤンマーの契約締結を報じる現地紙 Siamsport

バンコク・グラスとヤンマーの契約締結を報じる現地紙 Siamsport


ワールドワイドな業務提携グループとしてシティ・フットボール・グループが世界のサッカーマーケットに新たな一石を投じているが、これに選ばれたJクラブは日産自動車を母体に持つ横浜F・マリノスのみだ。グローバル企業をメインスポンサーに持たないJクラブにとっての海外提携は、クラブとそのステークホルダーに対してメリットを出せる関係以上のものは必要ない。文化的距離的に近く、富の集中する新興アジアのクラブを選ぶ理由はここだ。


もっとも、現在8つのJクラブがアジアのクラブチームと提携関係を持っているが、このパートナーシップ契約自体に何か決められた条項があるわけではなく、各クラブとも相互にメリットを享受するために試行錯誤のなか進んでいる。競技育成面の交流から、互いのメインスポンサーのマッチングというビジネス交流へ進んだセレッソとグラスの提携は、クラブの選択・相性自体が良かった。


アジアのプロサッカーシーンにおいては、ビジネスライクには事が運ばない。記者発表でチャットチャイ副社長は「スポンサーシップではなくてファミリーとして」と語ったが、実にタイ人らしい、王室に近しいシンハービールらしい柔らかい表現で、セレッソとグラスの絆が深まっているのを象徴している。


この契約によってセレッソは、自クラブのブランドをタイや東南アジア地域に展開するための強力な後ろ盾を得たばかりか、プレミアのメガクラブのスポンサー権利を当該地域でアクティベーションする手法(つまり東南アジアでのプロモーションの効果的な最新事例)を自然と手に入れることができるかもしれない。


ファンとしては、シンハービールがサポートするマンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、セレッソ大阪、バンコク・グラスの4チームが集まるカップ戦なども見たいところだろう。今後の展開が楽しみだ。


Jクラブがアジアのサッカークラブと提携する意味とそのポイントが、このストーリーのなかに隠されている。


(アジアサッカー研究所/長谷川)