• コラム

2017年12月29日 | タイ

2018タイサッカーまとめ/日本サッカー界とのエポックメイキングな1年


■タイ人初のJ1選手、チャナティップの衝撃

2012年からJリーグが推進してきた「アジア戦略」において、タイは最も重視されている国と言っていい。戦略の拠点である東南アジア諸国の中で、国の規模とサッカーの実力のバランスで先頭に立つ存在だからだ。2017年はそのタイとJリーグの関係が劇的に動いたシーズンだった。

2016年12月にタイ代表の中心選手であるチャナティップ・ソングラシンが、タイリーグのムアントン・ユナイテッドから北海道コンサドーレ札幌に期限付き移籍することが発表された。ムアントン・ユナイテッドがACL(AFCチャンピオンズリーグ)に出場することもあり札幌でのプレーは7月からとなったが、半シーズンで見せた活躍とその反響は期待を上まわるものだった。

第19節の浦和レッズ戦でJリーグデビューを飾ると、すぐにレギュラーに定着してほとんどの試合でスタメン出場。厳しい残留争いをしていたチームの欠かせない戦力となって、同じく後期から加入したジェイ・ボスロイドとともにJ1残留の立役者となった。

チャナティップの移籍を機に、タイではJリーグ中継が本格的にスタートした。タイのメディアが札幌に常駐してチャナティップの情報を日々発信していたこともあり、タイにおけるJリーグの露出は劇的に増す結果となった。チャナティップのJリーグデビューは、Jリーグ「アジア戦略」にとってもエポックメーキングな出来事であったのは間違いない。



■タイ代表のエース、ティーラシンもJリーグへ

チャナティップの衝撃は、Jクラブのタイ人選手への関心をさらに高めることにもつながった。12月にはサンフレッチェ広島がタイ代表の10番を背負うティーラシン・デーンダーの獲得を発表。2010年代に入って東南アジア最高の選手と評され続けてきた万能ストライカーが、来季のJリーグでどんなプレーを見せてくれるか期待したい。

2017年にJリーグでプレーしたタイ人選手はチャナティップだけではない。J3の鹿児島ユナイテッドにはタイ人初のJリーガーとしてU-19タイ代表FWのシティチョーク・パソが加入、さらに7月にはFC東京がU-23タイ代表で20歳のジャキットをクラブ間提携を結ぶバンコク・ユナイテッドからの期限付き移籍で獲得した。

FC東京U-23で主に中盤の右サイドでプレーしたジャキットは、J3で11試合に出場。最終節のセレッソ大阪U-23戦ではゴールも決め、タイ人選手としてJリーグ初ゴールをマークした。FC東京はジャキットの順応性の高さとポテンシャルを高く評価しており、本人も来季もJリーグでのプレーを望んでいることから、契約延長を視野にレンタル元のバンコク・ユナイテッドと話し合いが持たれることとなっている。

タイ人選手のJリーグ移籍に関しては、一般的に内弁慶と言われるタイ人の性格から環境への順応面で危惧する見方もあった。もちろん個人差はあるだろうが、今季Jリーグでプレーしたタイ人選手たちは見事に順応しており、杞憂であったことを証明した。2017年から適用された「提携国枠」によってタイ出身選手は日本人と同じ扱いで出場できるというメリットがあることを考えても、タイ人選手のJリーグ移籍の流れが加速するのは確実だろう。


■躍進を続けるタイサッカー

タイ人Jリーガーの誕生という大きな出来事があった2017年だが、Jリーグとタイリーグの関係は他の面でも進展した。1月には「2017Jリーグ アジアチャレンジinタイ インターリーグカップ」がバンコクを舞台に開催。鹿島アントラーズと横浜F・マリノスの2クラブが参戦し、タイリーグのバンコク・ユナイテッドとスパンブリーFCと対戦した。Jリーグが主催する大会の東南アジアでの開催は初の試みだった。

タイリーグのクラブとの関係構築に力を入れるJリーグクラブも地道な活動を続けている。バンコク・グラスFCと2012年から提携を結んでいるセレッソ大阪は、両クラブによるプレシーズンマッチを双方のスポンサー企業を冠とした「シンハーヤンマーカップ」としてタイで開催。2年連続の開催となり、タイにおけるセレッソ大阪の知名度は少しずつ高まっている。



近年の急成長でアジアトップレベルの戦いに加わってきたタイ。代表チームに先駆けてすでに日本勢にとっても脅威となり始めているクラブレベルでは、ムアントン・ユナイテッドがACLで決勝トーナメントに進出。グループステージではJリーグ王者の鹿島アントラーズに勝利する金星も挙げた。ここ数年はタイリーグと言えばブリーラム・ユナイテッドというシーズンが続いていただけに、ムアントンの活躍はタイリーグ全体のレベルアップを感じさせるものだった。

タイ代表は日本と同組を戦ったロシアW杯アジア最終予選を2分8敗という結果で終えたが、貴重な経験を積んだ。自国開催だった2007年大会以来の本大会出場を決めている2019年のアジアカップ、そして2022年のワールドカップ予選と今回の経験値が行かされることだろう。Jリーグとの関係を深めながら、タイが代表レベルでも日本を脅かす存在となる日がそう遠くないところに迫っているのかもしれない。



本多 辰成(ほんだ たつなり)
1979年、静岡県浜松市出身。出版社勤務後、日本語教師としてタイへ渡る。その後、タイをベースにフリーランスライターとして活動。サッカーをはじめとした東南アジアのスポーツを中心に取材、執筆を行っている。東南アジア情報サイトやサッカーメディアなどにタイを中心とした東南アジア関連の記事を寄稿している。