• コラム

2017年12月30日 | シンガポール

2018年に向けて、シンガポールサッカー試練の時


今年2017年のシンガポールサッカー、先日アップしたコラムにも書かせてもらったが、かなりシビアな状況と言わざるをえない。

11月25日、日本でいう天皇杯にあたるシンガポールカップの決勝戦が行われ、激戦の末、2-2の延長PK戦の末、アルビレックス新潟シンガポール(以下、アルビS)が優勝を飾り、シンガポールサッカーの今シーズンの幕を閉じた。2月26日のSリーグが開幕し、1つのタイトルにもなっているその開幕戦を含め、アルビSが昨年に引き続いて全タイトル(4冠)獲得を達成した。

2017年のSリーグは全9チームで構成されており、6つのローカルクラブに加え、アルビSを含む3つの特別クラブが参加している。(残り2つはは近隣国のブルネイのクラブチームと、シンガポールの若手選抜のチーム) その中で、2年連続でこの日本人チームに全タイトルを取られてしまったということは由々しき状況とも言える。

登録選手のすべてが日本人であるアルビSは、ズルいと思われがちだが、実際には日本人とはいえ、日本でトップクラスの選手たちで構成されているわけではない。大学を上がったばかりの選手だったり、海外でのプレーを夢見て出てきている若手や、実際にはトレーニーの選手たちも所属しているくらいだ。台所事情は決して潤沢ではない。観客動員の数や地域社会への貢献度という点をみても、実はシンガポールローカルのクラブより日本人クラブのアルビSのほうがよっぽど高かったりもする。アルビSの素晴らしさもさることながら、シンガポールサッカー界に大きな課題があると言えよう。

リーグのみならず、代表チームの成績も芳しくない。A代表は2019年アジアカップ予選(3次予選)においても、サッカー不毛の地とも言われている台湾にホームで敗れるなど、失態を犯し、グループリーグで1試合を残しながら予選敗退を決めている。東南アジアのオリンピックとも言える「SEA GAMES」が8月にマレーシアが行われ、ここにはU-23代表が参加したが、マレーシアとミャンマーに勝てずに、こちらでもグループステージ敗退となっている。女子については参加すらしていないのが現状だ。

混迷を極めるシンガポールサッカーだが、4月にはサッカー協会会長の選挙が行われ、「民主的に」新会長が選出された。対立候補のスキャンダル問題などもあり、ゴタゴタの中、どちらかいうと保守派の陣営から会長が選出されるという結果になった。期待された改革案はスピードを持って示されず、ファンからの失望の意見も多い。


■ 現地で活躍する日本人プロサッカー関係者

シンガポールリーグの日本人関係者といえば、上記のアルビSの選手たち以外にも数人のプレーヤーがローカルクラブで活躍している。元アルビレックス新潟で現在はホーガン・ユナイテッドの木暮郁哉や、同クラブの代田敦資、ウォーリアーズの福田健人、ゲイラン・インターナショナルの市川佑樹、タンピネス・ローバーズの恵龍太郎だ。指導者では、アルビSの吉永一明監督に加え、Jリーグの松本山雅からゲイラン・インターナショナルに派遣されている臼井弘貴氏が、リーグ戦途中から同クラブのコーチに就任した。また、シンガポールU-18代表では井上卓也氏が監督を務めた。

(写真左から、市川佑樹、代田敦資、恵龍太郎、福田健人)

上記のゲイラン・インターナショナルFCとの松本山雅との取り組みだが、今年で業務提携から1周年となり、松本山雅のホームゲームでもシンガポールブースが出展するなど、さらに関係性を深めている。ここでは両クラブのスポンサーであるセイコーエプソン社の貢献が大きい。


■ 新しいタイプのスタジアムが完成

明るい話題(?)、として挙げるとしたら、シーズン終盤にタンピネス・ローバーズFCのホームスタジアム「Our Tampines Hub」(※動画)が完成した。同クラブはシンガポールの島の最も東側に位置するSリーグクラブだが、ホームスタジアムの改修(完全取り壊しから新築)で数年間に渡り、最西端のスタジアムへ強制移動させられていた。そこからようやく「ホーム」に戻ってきたのだが、このスタジアムがまた興味深い。


いわゆる「スタジアムを中心とした複合型商業施設」だ。ただ、ナショナルスタジアムレベルの巨大施設ではなく、地方都市の地元の人達が日常生活で使うような店舗や施設、公共サービスなどがギュッと一つのまとまっている「ハブ」となっているのが特徴だ。観客席は5000人強しかなく、ピッチは人工芝のため、サッカー以外のコミュニティイベントなども多く実施されている。通常は市民開放されているのも嬉しい。

商業ベースの施設のみならず、上述の公共サービスや、体育館・プール・ジムなどの運動施設に加え、スポーツサイエンスや高齢者ケアサービス、保育所なども兼ね備え、市民の健康・ウェルネス向上を掲げ、スポーツ・コミュニティ・ライフスタイルを施設の3本柱としている。シンガポール同様高齢化社会を突き進む日本においても、特に地方都市ではこの規模感の複合型施設というのは大変興味深い事例と言えよう。実際に鎌倉市の市長も、老朽化する市庁舎の移転に際して、新施設のイメージとして自身のホームページで「Our Tampines Hub」を紹介している。

改革が叫ばれているシンガポールリーグ。来期のSリーグはテコ入れが行われる。各クラブでの外国人選手登録は2人まで(今季は3人。2年前は5人までだった)。23歳以下の選手を最低6人以上登録必須。そのうちスタメンに3人以上起用する必要がある。さらに30歳以上の選手は最大6名しか保有できない。これらの年齢制限を課すことにより、若手の出場機会の促進を図り、ボトムアップからのレベル向上という長期的な戦略に出た。アルビSも例外ではなく、さらに厳しい年齢制限が突きつけられている。これらの施策がどう作用するか、来期のシンガポールリーグでは注目されている。すぐに結果がでるような話ではないが、来年が明るい未来への第一歩となるだろうか。



四方 健太郎(よも けんたろう)
立教大学を卒業後、アクセンチュア株式会社の東京事務所にて、主に通信・ハイテク産業の業務改革・ITシステム構築に従事。2006年より中国に業務拠点を移し、大中華圏の日系企業に対すコンサルティング業務にあたる。2008年に独立後、1年かけてサッカーワールドカップ2010年大会に出場する32カ国を巡る「世界一蹴の旅」を遂行し、同名の書籍(双葉社)および、『世界はジャパンをどう見たか?』(経済界社)を上梓。現在、東南アジアやインドでグローバル人材育成のための海外研修事業に従事。現在はシンガポール在住。アジアサッカー研究所所長。東南アジアを中心としたサッカーニュースの配信や翻訳・PR、サッカー・フットサルチームの海外コーディネーション事業を営んでいる。